副業・兼業に係る労働時間

近時の働き方改革の一環として、政府は副業・兼業を奨励しています。
もっとも、副業・兼業を行うことにより1日の労働時間が長くなると、労働基準法の規制が関わって来る場合があり、本日は、その点について考察をいたします。

1. 複数の会社で働く従業員の1日の労働時間は、通算されます。

 例えば、B社が5時~8時までの3時間のパート・アルバイト従業員を時給1,000円で募集をしたところ、既にA社でフルタイムで働いているXさんが応募してきた場合を考えます。
 B社で採用されると、Xさんは、A社への出社前に毎日B社で5時~8時まで3時間働き、その後A社で9時~18時まで8時間働く(休憩1時間)ことになります。いわゆるダブルワークです。
 労働基準法38条1項で「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されていることから、このXさんの1日の労働時間は、A社とB社の分が通算され、合計で11時間働いているため、法定労働時間の8時間を超える3時間が時間外労働となります。
 労働基準法37条1項で、1日8時間を超える労働には、通常の賃金の割増賃金(25%以上の割増し)を支払わなければなりません。
 そこで、この3時間分の割増賃金をA社とB社のどちらが支払うべきかが問題となります。

2.後から雇った会社が割増賃金を支払います。

 この割増賃金をどちらが支払うべきかについては裁判例がなく、厚生労働省からも見解が示されていませんでしたため、実務上もダブルワークの従業員の割増賃金は看過されがちでしたが、令和2年9月1日に厚生労働省から通達が出され、時間的に後から労働契約を締結した会社での労働時間が時間外労働時間となり、割増賃金を支払うべきことが示されました。
 したがって、A社とB社での労働時間の合計11時間のうち、後からXさんを雇ったB社での労働時間が、1日の法定労働時間(8時間)を超える時間外労働となり、B社が割増賃金を支払うことになりますので、B社が支払うべき時給は、1,000円ではなく1,250円となります。
 B社としては、このような不測のコスト増を防ぐためには、Xさんを雇用する前に、他社での就労の有無・労働時間数を申告してもらい、他社へも確認を取る必要があります。

3.割増賃金の支払いの他にも、対応が必要となります。

 このほかにも、
 ①労働基準法36条1項の労使協定の締結、
 ②時間外・休日労働の上限規制の適用(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)、
 ③時間外労働が月60時間超の場合の50%以上の割増賃金支払い義務(※中小企業は令和5年3月31日まで猶予)
など、従業員の副業・兼業には、事前に検討を要する事項、他社と取り決める事項、継続的に管理すべき事項がございます。

 そして、上記B社が通常の賃金のみを支払い、割増し分を支払わなかった場合は、賃金の不払いとなります。
 この賃金の支払い請求権は、時効がこれまで2年だったものが5年(令和2年4月から当分の間は3年)に伸長されましたので、労働時間の管理には一層の確実さが必要となります。


※A社やB社が労働時間の規制を受けない事業であった場合、Xさんが個人事業主等で労働者として雇用されない場合、労働時間規制を受けない労働者である場合は、上記と取扱いが異なります。

副業・兼業の労務管理にご不明な事がございましたら、ぜひ弊所へご相談ください。

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